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大阪高等裁判所 平成8年(ネ)617号 判決 1998年9月04日

大阪市福島区鷺洲六丁目一番四号

控訴人・附帯被控訴人

(以下、単に「控訴人」という。)

中国興業株式会社

右代表者代表取締役

松本克己

大阪府豊中市新千里西町三丁目一〇番一一号

控訴人

松本克己

右両名訴訟代理人弁護士

米原克彦

碩省三

植村公彦

大阪府箕面市船場西一丁目五番三号

被控訴人・附帯控訴人

(以下、単に「被控訴人」という。)

フイガロ技研株式会社

右代表者代表取締役

横地旦

右訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

右訴訟復代理人弁護士

池下利男

村田秀人

右補佐人弁理士

塩入明

主文

一  控訴人中国興業株式会社の控訴に基づき、原判決主文第一項及び第二項中同控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人中国興業株式会社は、被控訴人に対し、五四三九万八六〇五円及びこれに対する平成五年九月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人の控訴人中国興業株式会社に対するその余の請求を棄却する。

二  控訴人中国興業株式会社のその余の控訴、控訴人松本克己の控訴及び被控訴人の附帯控訴をいずれも棄却する。

三  控訴人中国興業株式会社と被控訴人との間の訴訟費用は、第一、二審(附帯控訴費用を含む。)を通じ、これを五分し、その一を同控訴人の、その余を被控訴人の負担とし、控訴人松本克己の控訴費用は同控訴人の負担とする。

四  この判決の第一項1は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の控訴人中国興業株式会社(以下「控訴人会社」という。)に対する本訴請求を棄却する。

3  被控訴人は、控訴人会社に対し一〇〇〇万円を、控訴人松本克己(以下「控訴人松本」という。)に対し五〇〇万円をそれぞれ支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

5  3、4項につき、仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

三  附帯控訴の趣旨

1  原判決中、被控訴人の控訴人会社に対する本訴請求を一部棄却した部分を取り消す。

2  控訴人会社は、被控訴人に対し、二億五〇〇〇万円及びこれに対する平成五年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  附帯控訴費用は控訴人会社の負担とする。

4  2、3項につき、仮執行宣言

四  附帯控訴の趣旨に対する答弁

1  本件附帯控訴を棄却する。

2  附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要、争点及び争点に関する当事者の主張は、以下に付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載するとおりであるから、これを引用する(ただし、一審被告常深剛生に関する部分を除く。また、当審において、被控訴人は、不正競争防止法に基づく主張を主位的とし、特許権侵害を理由とする主張を予備的としたため、原判決記載の争点1は、同争点2についての被控訴人の主張が認められない場合にのみ、判断の対象となる。)。

一  原判決八頁七行目の「民法」から同頁八行目の「基づき」までを「主位的に、不正競争防止法二条一項一号、四条に基づき、予備的に、特許権侵害(民法七〇九条)を理由として」に改める。

二  同一二頁一一行目と一二行目の間に、次の文章を加える。「 なお、一般に特許品を権限のある者から譲渡され、これを転売しても、特許権の侵害とはならない。特許権は権限のある者から正当に最初に譲渡された時点で消尽する。本件において、千葉は不合格品を廃棄処分する権限を有しており、その正当な権限に基づいて不合格品を有償で売却したものであり、イ号物件の大半は、単に再検査し選別し直しただけの商品であり、特許品の単なる転売として特許侵害を論ずる余地はなく、それ以外のイ号物件も、単に性能をアップして性能要求基準に達するような手直し作業を施しただけのものであり、右消尽理論の適用に当たり結論を異にするものではない。したがって、仮にイ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属するとしても、控訴人会社の行為は特許権侵害には当たらない。」

三  同四四頁七行目と八行目との間に次の文章を加え、同頁八行目の「(一)」を「(二)」に、同四五頁三行目の「(二)」を「(三)」に、同四六頁七行目の「(三)」を「(四)」に、同四八頁五行目の「(四)」を「(五)」にそれぞれ改める。

「(一) 本件において、控訴人会社(具体的には、その代表取締役である控訴人松本。以下、本2項において同じ)に不正競争防止法二条一項一号に該当する行為について過失があるといい得るためには、<1>控訴人会社がイ号物件に付された「109」なる商品の表示あるいはその商品形態の内容を知っているか、知らないことについて過失があること、及び<2>控訴人会社がその表示あるいは商品形態がその取引分野において周知性を獲得していたことを知らないことについて過失があることの二つの過失要件をまず満たさねばならない。

本件では、控訴人会社は被控訴人と業種を全く異にし、控訴人会社は被控訴人の競争関係にあった者でもなければ、当該業界内の商品知識を期待できる立場の者でもない。イ号物件の取引における控訴人会社の関与の仕方を考慮するなら、このような業態の商社に対し一般通常人以上の注意義務を課す根拠は何もない。そうであるとすれば、控訴人会社の行為をして不正競争防止法二条一項一号、四条の規定における過失ありとすることには、合理性がない。」

四  同五一頁一行目の「により」の次に「控訴人会社の行為につき被控訴人の承諾があったことになり、違法性が阻却されて」を加え、同頁三行目以下末行までを次のとおり改める。

「(一) 不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争防止法違反の行為については、被害者の承諾があれば違法性は阻却される。イ号物件の取引は、千葉が承諾を与えた取引であり、右承諾の法的効果が被控訴人に及ぶ場合には、控訴人の不正競争行為の違法性は阻却される。

本件取引が始まった当時、千葉は被控訴人の代表権のない取締役会長であったが、取締役会長なる名称を付した取締役は商法二六二条にいう表見代表取締役に該当する。表見代表取締役の制度において保護されるのは「善意の第三者」であるが、表見代表取締役に権限がないことにつき重過失があればともかく、単に過失がある者も「善意の第三者」に含まれることは、確定した判例・通説である。本件において、控訴人松本に悪意と同視すべき重大な過失がない限り、仮に過失があったと仮定しても、千葉のした承諾の効果は被控訴人に帰属する。原判決は、控訴人松本について商法二六六条の三第一項の責任があるか否かの判断をするに当たって、重大な過失はなかった旨の判断を示しているが、そうであれば、商法二六二条の規定の適用に当たっても、千葉のした承諾の効果は被控訴人に帰属し、控訴人会社の行為の違法性は阻却されると解すべきである。

本件事案は不法行為に関する事件であるが、不法行為には、自動車事故のような純然たる事実行為としての不法行為(事実行為的不法行為)と詐欺行為のような取引行為の外形を持つ不法行為(取引行為的不法行為)とがあり、取引行為的不法行為については、商法二六二条の規定の適用ないし類推適用が肯定されるべきである。」

五  同五二頁九行目の「民法七〇九条」を「主位的に不正競争防止法四条に基づき、予備的に本件特許権侵害(民法七〇九条)」に、同五三頁三行目の「原告商品」から同頁九行目末尾までを「被控訴人商品の仕入価格は一個九九・七円であり、仕入後の経費(検査料、メンテナンス料)は九・四五円であるため、原価は一〇九・一五円となる。これに収率平均六一・〇三パーセントを考慮すると、最終原価は、一個当たり一七八・八五円となる(甲第四七号証、第四八号証)。また、被控訴人の新コスモス電機株式会社への売値は、当然のことながら控訴人会社の売値よりは高く、都市ガス用四七〇円、LPガス用三七〇円であるから、被控訴人商品一個当たりの純利益は、都市ガス用二九一・一五円、LPガス用一九一・一五円である。」にそれぞれ改め、同頁一〇行目の「被告会社が」の次に「昭和六三年四月一六日以降平成五年九月までに」を加え、同頁一一行目から一二行目にかけての「六一万九五三六個」を「六一万六五四二個」に、同五四頁一行目の「六億六三五三万九三四七円」を「六億二〇九八万六〇五二円」に、それぞれ改める。

六  同五四頁六行目と七行目との間に、次の文章を加える。

「なお、被控訴人商品は、侵害開始時である昭和六三年には、その特許出願から既に一〇数年が経過しており、その開発費・設備投資費用等は既に回収済みであつて、利益のみを取得する状態になっており、単一の商品の特定の継続的取引先販路が侵害された事案であるから、被控訴人商品の他の取引先との関係における販売利益や被控訴人の他製品の開発費、経費等を論ずる必要はない。このように、本件では、被控訴人は被控訴人商品につき、既に開発費等の資本を投下し、投下資本を回収する過程にあったのであって、新たな投資は必要なかったし、被控訴人においては控訴人会社による侵害期間中においても、それ以前、以後においても製造設備の増大等が行われた事実はなく、十分に製造余力が存在していた。したがって、本件損害の算定については、製品ごとの「粗利益」額が逸失利益の額となるという限界利益説の考え方が妥当する。

控訴人会社は、損害額計算の際、製造原価として算入されるべきものが算入されていないとも主張するが、フィガロセンサは被控訴人とは別の法人格を持つ会社であり、それぞれが独立の損益計算を行うべきこと、同社からの実際の請求額が製造原価の重要部分を構成していることから、損害額の算定根拠は十分である。仮に控訴人会社の主張を前提としてみても、損害額が被控訴人の一部請求金額に影響するほど減少するわけではない。」

七  同五四頁八行目と九行目との間に次の文章を加える。

「1 売上について

控訴人会社を経由したイ号物件の取引は、被控訴人が新コスモス電機株式会社に対し一気に商品価格を二倍に引き上げるような報復価格を設定したため必要となった価格調整のための取引であり、イ号物件の取引がない場合には、被控訴人が右価格を維持し得ないことは明らかである。被控訴人の新コスモス電機株式会社に対する販売価格は、控訴人会社がイ号物件の販売を停止した後半年も経たないうちに、その他の売り先に対する価格に急激に接近しており、控訴人会社がイ号物件の取引をしていない場合において、都市ガス用四七〇円、LPガス用三七〇円の価格を維持し得たとは到底いえない。右の急激な価格変動を見るなら、むしろ、被控訴人は、控訴人会社が新コスモス電機株式会社に販売した単価でセンサを販売し得た蓋然性が高かったとしかいえない程度である。

2 経費について

原判決は、フィガロセンサ株式会社(以下「フィガロセンサ」という。)からの請求書記載の金額を商品仕入価格として、原価認定の根拠としているが、フィガロセンサは、被控訴人の一〇〇パーセント子会社で、被控訴人のパート部門とでもいうべき存在であり、センサ製造に必要な多くの経費は、経理上被控訴人において負担する扱いとしており、同社からの請求額は、第三者からの正常な商品仕入価格とみることはできず、それ故、右資料をもって、被控訴人の製造原価認定の証拠とすることはできない。本件では、被控訴人は被控訴人商品の部門別製造原価やその他の経費資料を提出しておらず、同製品について、原価を確定すべき証拠は存在していない。 センサの最重要な基本材料である金属酸化物半導体(酸化錫)の粉体は、被控訴人センサ製造の生命線というべき最重要工程であって、多大な製造経費を要する。フィガロセンサの出向社員の人件費その他の一般管理費、建物、機械・設備の償却、工具の損料などはすべて被控訴人において負担していた。フィガロセンサは、電気代など一切の光熱費を負担しておらず、被控訴人において負担していた。さらに、フィガロセンサが在庫を有した場合に発生する銀行の借入金利、販売に伴う手形の割引費用、従業員に対するボーナス資金の借入れに伴う金利負担など銀行取引から生じる一切の負担は、被控訴人において行っていた。以上によれば、被控訴人商品の製造に要する費用は、フィガロセンサからの請求書以外に多々あることは明らかであるが、被控訴人は製品別製造原価を明らかにする書類をフィガロセンサの請求書以外には提出しておらず、その製造に要する費用は不明である。

3 収率(良品合格数の全生産数に占める割合)について

原判決の認定する被控訴人の損害算定期間は昭和六三年一月から平成五年九月までの間であるが、甲第四八号証は、収率計算において平成三年四月から平成六年三月の期間を計算対象としているにすぎず、これを収率計算の基礎とすることはできない。すなわち、被控訴人は昭和六二年から平成二年にかけて返品センサの再生技術を確立したため、じ後、収率は大幅に向上している。

4 被控訴人の損害

(一)  本件では限界利益説は採用できない。

限界利益説は、コンピューターのソフトウェアのように、開発費用が商品の製造経費の大部分を占めかつ一旦開発が終了すれば、その後の開発費用は不要といった特殊な商品の場合について主張され、またこのような場合には、同説を合理的な説として受け入れることも可能である。しかしながら、工場で製造される通常の工業製品について、一般的に限界利益説を適用することはできない。通説、判例は通常の工業製品の場合には純利益説を採用するが、この説は、売上が増加する場合には通常すべての費用が増加するとの経験則を基礎としており、本件にも妥当する。

(二)  被控訴人の製造余力

控訴人がイ号物件を販売した期間である昭和六三年一月から平成五年九月までの間、被控訴人及びフィガロセンサに製造能力に余力はなかったことは証拠上明らかであり、かつ、被控訴人商品に関連した開発費も要しており、本件は、限界利益説を適用する前提を大きく欠いている。

(三)  通説、判例に従う場合の被控訴人の損害

被控訴人の昭和六一年九月期から平成六年三月期までの平均純利益率は売上対比○・九パーセントである。先に述べたように、控訴人がイ号物件の取引をしていない場合においては、被控訴人は、せいぜい控訴人が新コスモス電気株式会社に販売した単価でセンサを販売し得た蓋然性は高いといえるのみであるから、控訴人に賠償責任があると仮定した場合における賠償金額(過失割合一割)は九四万九〇〇〇円にすぎない計算となる。」

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所は、被控訴人の控訴人会社に対する本訴請求は五四三九万八六〇五円及びこれに対する平成五年九月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度において理由があり、その余は理由がなく、控訴人らの反訴請求は、いずれも理由がないものと判断する。

二  その理由は、以下に付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第四 争点に対する判断」(ただし、「一 争点1(イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属するか)について」(原判決五八頁一一行目から同六〇頁三行目まで)、原判決九二頁四行目から同九三頁六行目まで、同一〇二頁末行から同一〇三頁一行目まで、同一〇九頁六行目から同一一一頁一二行目まで(一審被控訴人常深についてのみ関係する部分)を除く。)のとおりである。

1  原判決七〇頁七行目の「第一〇号証」の次に「、第一四号証」を、同頁八行目の「第四〇号証」の次に「、第四五号証の1・2、第四六号証の1・2」をそれぞれ加える。

2  同九一頁八行目の「平成六年」から同頁九行目末尾までを、「平成六年度も約一二二万個となって、大きく回復し、昭和六二年度の水準に近づいている。さらに、平成七年度には約一五四万個と右の水準を上回っている。」に改める。

3  同九三頁一〇行目から一一行目にかけての「本件特許権を侵害するものであり、かつ、」を削除する。

4  同九八頁八行目、同一〇二頁一〇行目から一一行目にかけて、同頁末行の各「特許権侵害行為及び」をいずれも削除する。

5  同一〇三頁四行目の「まず、」から同一〇五頁四行目末行までを次のとおり改める。

「控訴人会社は、貴金属触媒等を取り扱う商社であり、一般消費者ではなく、被控訴人の製品の販売取引を行うということを承知した上、被控訴人商品と同一の形態及び商品表示を有するイ号物件を継続的かつ大量に販売したものであり、控訴人会社の代表取締役である控訴人松本は、イ号物件の商品形態や商品の表示、あるいはその商品形態等がその取引分野において周知性を獲得していたことを仮に知らなかったとすれば、そのことについて過失があることは明らかである。控訴人松本は、原審において、貴金属合金線をセンサだと思っていた、センサの現物も被控訴人のパンフレットも見たことがなく、センサの見本についても記憶がないなどと供述しているが、それ自体直ちには信用し難いところであるが、ガスセンサの業界が控訴人会社にとって新規分野であったとしても、継続的販売取引という形で当該分野に参入する以上、商社といえども、自己の取扱商品を把握し、その市場や取引実状を調査すべきことは当然であって、仮に前記の点の認識がなかったとすれば、そこに過失があるものといわざるを得ない。」

6  同一〇七頁一二行目の「すなわち、」から同一〇八頁三行目の「関し、」までを、次のとおり改める。

「加えて、被控訴人において製造したセンサであるというのに、前記認定のとおり、イ号物件の返品率が高く、初回の昭和六三年一月一二日取引分で収率約二割、以後同年二月二六日取引分まで合わせてようやく収率五割弱と収率が極めて低かったことについても、不審を抱いて当然ということもできる。

当審において提出された控訴人松本の陳述書(乙第一六号証)では、同人は、千葉から、被控訴人の新コスモス電機株式会社への販売価格が高いため関係が悪くなっているので、価格調整のために、被控訴人のセンサを輸出用のセンサということにして値段を下げて販売してほしいと言われた旨述べるが、控訴人松本は、原審では、「千葉からフィガロのセンサを輸出用として販売してくださいと言われた。」と述べるにとどまり、新コスモス電機株式会社に対して高い価格で販売して、関係が悪くなっていることによる、価格調整のための取引であることをうかがわせる供述はしていない。むしろ、控訴人松本は、「千葉から、フィガロで作った輸出用のセンサがあるから、国内で売らないかと言われた。」との趣旨の供述をし、同旨を確認する質問に対して繰り返しこれを肯定しており、さらに、被控訴人が直接販売しない理由に関する質問に対しても、「深くは考えなかったが、新コスモス電機株式会社からの支払が現金でないため、控訴人会社に立替業務と運搬業務を求めているのかなと感じた。」と供述するにとどまっている。これらの供述と対比するならば、当審において提出された前記陳述書(乙第一六号証)の内容を直ちに信用することはできない(なお、仮に、右陳述書の内容のとおりであると仮定した場合には、国内用に製作したものを輸出用として低価格で販売するというのであるから、いくら価格調整のためとはいえ、その販売数量が増大すれば、被控訴人の利益率等の点で問題が生ずるはずであって、その取引が拡大していくことにも疑問を抱いて当然である。)。

したがって、控訴人会社は、イ号物件の取引による不正競争行為につき過失があるものといわざるを得ず、特段の事情がない限り本件不正競争行為につき責任を負うものといわなければならず、右特段の事情は認められない。

さらに、被控訴人は、控訴人松本には、本件不正競争行為に関し、」

7  同一〇九頁三行目の「本件特許権の侵害に基づく」を「本件不正競争防止法に基づく」に改める。

8  同一一一頁末行の「イ号」から同一一二頁七行目末尾までを次のとおり改める。

「以上によれば、イ号物件の販売による不正競争行為について、控訴人会社の代表取締役である控訴人松本には、過失があるが、商法二六六条の三にいう悪意又は重大な過失があるとはいえない。

したがって、イ号物件の販売による不正競争行為につき、控訴人会社は特段の事情のない限り責任を負うというべきであるが(右特段の事情は認められない。)、控訴人松本に対する損害賠償請求は理由がないというべきである。また、控訴人松本に対する本件特許権の侵害に基づく損害賠償請求(予備的請求)も右と同一の理由により、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。」

9  同一一二頁九行目の「により」の次に「控訴人会社の行為につき被控訴人の承諾があったことになり、違法性が阻却されて」を加え、同一一三頁三行目の「特許権侵害及び」を削除し、同行の「不正競争」の次に「(予備的に本件特許権侵害)」を、同頁五行目の「なく、」の次に「違法性の有無の判断に当たり、客観的に被控訴人が本件不正競争行為(イ号物件の販売)を承諾していたかどうかを問題とするものであり(その肩書を有する者の指示又は承諾があった場合には、これを権限ある者の指示又は承諾と信じて取引をしたことにより、主観的責任要件を欠くことになる場合があるにとどまる。)」をそれぞれ加える。

10  同一一四頁三行目冒頭の「いていること」を「き、以後更にこれを上回るようになっていること」に改め、同頁一〇行目の「ない」の次に「(なお、控訴人会社は、イ号物件の販売停止後、被控訴人の新コスモス電機株式会社に対する販売価格を引き下げているから、控訴人会社がイ号物件を販売していなかったとしても、イ号物件の価格以上で販売することはできなかった旨主張するが、昭和五九年、六〇年ころに被控訴人が新コスモス電機株式会社に二倍の値上げを通知した際も、同社は、代替品の購入の見込みがないため右値上げを受け入れて被控訴人商品の購入を継続していること、イ号物件が販売されていた期間中も、被控訴人は新コスモス電機株式会社に対し都市ガス用四七〇円、プロパンガス用三七〇円で販売し続けていたことなどからすると、現に販売していた価格よりも低額でなければ、新コスモス電機株式会社に対し同数量を販売することはできなかったとみることはできない。また、被控訴人に製造余力がなかったことをうかがうに足りる証拠はない。)」を加え、同頁一一行目の「特許権侵害行為及び」を削る。

11  同一一五頁二行目冒頭から同頁一二行目末尾までを次のとおり改める。

「2 甲第三六号証、第四七号証、第四八号証及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人商品のフィガロセンサからの仕入価格は一個九九・七円であり、仕入後の経費(検査料、メンテナンス料)は九・四五円であって、これらを前提とする原価は一〇九・一五円であること、右の原価は良品と不良品とを選別する前の仮原価であり、収率(良品合格数の全生産数に占める割合)平均六一・〇三パーセントを考慮すると、最終原価は、一個当たり一七八・八五円となること、被控訴人の新コスモス電機株式会社への売値は、都市ガス用四七〇円、LPガス用三七〇円であることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そうすると、被控訴人商品一個当たりの利益は、都市ガス用二九一・一五円、LPガス用一九一・一五円となる。」

12  同一一六頁三行目の「していなければ、」の次に「右の一個当たり利益額を前提として計算すると、」を加え、同頁四行目の「六億三一三一万五三二九円」を「六億二〇九八万六〇五一円」に、同頁五行目の「一億八一六八万二五九六円」を「一億七九五〇万六二〇三円」に、同行目の「四億四九六三万二七三三円」を「四億四一四七万九八四八円」に、同頁六行目の「純利益」を「利益」にそれぞれ改める。

13  同一一六頁六行目と七行目との間に次の文章を加える。

「ところが、乙第一七号証、第一八号証、第三五号証によれば、被控訴人が被控訴人商品を仕入れているフィガロセンサは、従前被控訴人の工場内においてパート従業員により行われていたセンサの組立作業部門を人事管理上別会社にしたものであって、被控訴人の一〇〇パーセント子会社で、被控訴人と住所を同じくし、主要な役員は被控訴人の役員が兼任しているなど、実質的には被控訴人の社内の一部門にすぎず、パート従業員を管理するための管理要員の約半数は被控訴人からの出向者であるところ、その人件費は被控訴人の負担となっているほか、フィガロセンサが製造業務に使用していた建物の償却費・賃借料、昭和五七年ないし五九年に製作した機械設備の償却費、光熱費、センサ基本材料費、借入金利息等は、被控訴人において負担していたものであり、フィガロセンサから被控訴人に対する請求書に記載された原価には、右の出向者人件費、建物の償却費・賃借料、機械設備償却費、光熱費、センサ基本材料費、借入金等の経費は含まれていないことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

このような事情の下において被控訴人の逸失利益を算定するに当たっては、独立した第三者から仕入れる場合には当然に仕入価格に算入されるべき経費であって、被控訴人が実質的に負担している費用の額は、これを製造原価に加えて売上げから控除するのが相当と考えられる。そして、甲第五二号証によれば、乙第三五号証に明記された前記各費用を製造原価に加えて計算してみると、イ号物件の販売期間である昭和六三年一月から平成五年九月(五・七五年間)に対応する製造原価は八〇五〇万円増加することが認められ、他方、これを超えて製造原価に算入すべき額を認めるべき的確な証拠はない。そうすると、当裁判所の認める侵害期間である昭和六三年四月から平成五年九月(五・五年間)に対応する製造原価増加額は、七七〇〇万円であることが認められ、他に適切な資料のない以上、本件においては、前記利益額から右の製造原価増加額を控除した金額である五億四三九八万六〇五一円をもって被控訴人の逸失利益の額と認めるのが相当である。」

14  同一一七頁二行目の「六三一三万一五三二円」を「五四三九万八六〇五円」に、同頁四行目の「(四)」を「(五)」に、同頁九行目の「主張するが、」の次に「発生した損害については、その責任原因ごとにその損害賠償請求権が成立することは当然であり、何らの矛盾もない。一方に損害賠償請求権が成立しなかったからといって、他方の損害賠償請求権の成立を阻却するものではない。なお、」を加え、同行から一〇行目にかけての「六億三一三一万五三二九円」を「五億四三九八万六〇五一円」に改め、同頁一二行目の「過失がなければ」の次に「(不正競争行為ないし特許権侵害行為についての過失もなければ、本来被控訴人に損害賠償請求権は成立しないのであるが)」を加え、同一一八頁一行目の「あり」を「ある。」に改め、同行の「〔原告の」から同頁二行目の「矛盾はない。」までを削除し、同頁五行目の「六億三一三一万五三二九円」を「五億四三九八万六〇五一円」に、同頁七行目の「六三一三万一五三二円」を「五四三九万八六〇五円」にそれぞれ改める。

第四  結論

以上によれば、被控訴人の控訴人会社に対する本訴請求は五四三九万八六〇五円及びこれに対する平成五年九月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度において認容し、その余を棄却すべきものであって、これと異なる原判決はその限りにおいて変更を免れない。他方、原判決が控訴人らの反訴請求をいずれも棄却した点は相当である。よって、控訴人会社の控訴に基づき原判決を前記の限度で変更し、控訴人会社のその余の控訴及び控訴人松本の控訴並びに被控訴人の附帯控訴をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)

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